2009年06月28日

吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』ちくま文庫

つむじ風食堂の夜 おしゃれなカフェで一人落ち着いて読みたい本。夜な夜な食堂に集まる小さな町の住人たちは、みんな少しずつどこかずれている。しかし、そのずれが見事に調和していて、ほどよい面白みと柔らかい雰囲気を醸し出している。唐辛子についての記事を書くために三百万の本を売りつけられそうになる「先生」、それを真に受けるところもおかしいが、真に受けてもおかしくない周りの人のおかしさがある。人と人との関係は、その個性の相克次第でどのようにでも成り立つんだなと思った。「奇跡」の題名がつけられた章では少しホロリとさせられる。ゆっくり時間をかけて様々な想いに浸れるいい作品だった。 Amazon


posted by ryoukana at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

河合隼雄『子どもの宇宙』岩波新書

子どもの宇宙 児童文学は子どものための文学というだけでなく、子どもを描いた文学なのだなとつくづく思った。本書は、臨床心理学者の著者が、児童文学を通じて子どもの心理を究明する。子どもが大人になるためにはどのような道を辿らなければならないのか。通過儀礼とも呼ばれるが、一つ一つ試練を乗り越えるうちに社会性や自律性を獲得してゆく。ただ、その一方で、感受性や創造性といった子ども特有のものをなくしてしまいがちだ。バランスのとれた人間性を備えつつ成長。これが理想なんだろう。 Amazon
posted by ryoukana at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

吉田修一『女たちは二度遊ぶ』角川文庫

女たちは二度遊ぶ 人生の中でふと出会い、刺激を与えてくれるものの、気づけば二度と出会うことはなくなってしまう。そのような存在は数多くいる。しかし、男にとって、それが女性であれば、話は簡単には終わらない。二度と出会わないとわかっていながらも、あるときあるタイミングで思い出してしまうのだ。そういった意味で、「二度遊ぶ」というこの書名は、とても上手に言い当てているなと思う。心乱されるのは一度で充分である。 Amazon
posted by ryoukana at 21:39| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月27日

吉田修一『初恋温泉』集英社文庫

初恋温泉 温泉は文字通り身も心も裸にする。普段は見栄とか体面に包み隠されていた本音が思わず外に出てしまう。それにより、人と人との繋がりに変化が生じる。しかしまた、湯気によって、普段見えているはずのものが見えなくなってしまい、余計な疑念を抱くことにもなる。この短編集は、そんな温泉を装置として、五組の男女の心模様を描く。心地よいだけではない。中には熱すぎて入ることのできない温泉もある。ぬるま湯にずっと浸かっていれば、ふとした刺激に耐えられない。人生、中庸が肝心なのである。 Amazon
posted by ryoukana at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

太宰治『地図 初期作品集』新潮文庫

地図 初期作品集 大学時代、研究のために新潮文庫を全巻読破した太宰治。そのシリーズ最新刊が出たとなれば、読むしかない。もはや義務感。ただ、期待感もそれと同じくらいにあった。初期作品集ということで、懊悩や破滅といった空気はない。落ち着いた筆致で、ただただポーズをとっているという印象だ。自身をよりよく見せようと、誇大広告のオンパレード。そして、そのつけが回ってくる。悲しい人間の性が表現されていて、味わい深い。こんなことを感じるあたり、私の麻疹はまだまだ治っていないのかもしれない。 Amazon
posted by ryoukana at 22:10| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。