2009年07月09日

あさのあつこ『ありふれた風景画』文春文庫

ありふれた風景画 周りの感情の機微に敏感で、揺れ動く多感な二人の少女、瑠璃と周子。その心の交流を描いた作品。鴉の襲撃が二人を結びつけるという衝撃的な出来事から始まり、あっという間に深まった関係も、決して順風満帆ではない。やや積極的な瑠璃が向けてくる気持ちに対して、周子は最初のうちは戸惑ってしまう。「言葉でも眼差しでも想いでも同じだ。どこか曖昧にぼかした方がいい。まっすぐに一途にひたむきに、他人に向けてしまうと痛い。自分で自分を傷つけることになる」というように。この言葉は、自分にとっては共感もできるし、反駁したくもなる不思議なものだ。自分が傷つくとわかっていても、気持ちは伝えなければ伝わらないし、徹底的にやった末の傷つきなら誇れると思うからだ。瑠璃も傷つきながら、望ましい関係を築いていく。重い事件が起こりつつも、どこか清々しい作品だった。 Amazon


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2009年07月05日

村山由佳『蜂蜜色の瞳 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season I』集英社文庫

おいしいコーヒーのいれ方 Second Season I 蜂蜜色の瞳 長々と続いている「おいコー」シリーズも、前巻でようやく勝利とかれんの関係に一つのゴールが訪れ、Second Seasonに突入した。そこで読者に配慮してか、書き出しは今までのあらすじを勝利が語るという場面から始まっている。私のように文庫が発売されるのを今か今かと首を長くして待っている読者にはありがたいが、のちのち一気に全巻読破する読者が現れたときには少し蛇足に感じられないだろうか。そんな作家としての事情はともかく、内容はやはり私の心を揺さぶるものだった。最も読む手を止めて考えてしまったのは、勝利と、彼が借りているアパートの大家の奥さんである裕恵との会話のシーン。とあることから恋愛論に発展し、意見した勝利に対し、裕恵の言った言葉。「人間からその常識や理性を失わせてしまうものこそが、恋ってものの本質だとしたら、どう?」「好きになっちゃいけないとわかってても、ううん、わかっているからこそどんどん好きになる。抑えれば抑えるだけ、逆に歯止めがきかなくなっていく。つらさが、なおさらその恋を甘くする。――あなたはまだ知らないかもしれないけど、そういうことだって、人には充分起こりうるのよ」酸いも甘いも充分に経験した大人の女性の意見に、勝利は何も言い返すことができない。「つらいからこそ甘い」かどうかは別として、恋が理性を失わせるものだというのも、抑えれば抑えるほど好きになるというのは痛いほどわかる。この心を的確に突いてくる感じ、村山由佳、なんなんだ。 Amazon
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黒川創『明るい夜』文春文庫

明るい夜 就職試験も受けないまま大学を卒業し、アルバイト生活を続ける朋子。「このままじゃいけない」と感じつつも、打開策を見いだせない。日々の生活を淡々と語るも、その中には違和感が潜んでいる。定職に就いていようといまいと、こんな感覚を抱いている若者は多いのではないだろうか。この小説の登場人物たちはそれぞれ特別な事情を抱えているだろうが、それでも普遍的なものを描いているように思う。優れた小説は、具体と一般の繋がりが強く太い。そのことを感じられる作品だった。読みを深化させてくれる解説も秀逸。 Amazon
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