2009年08月23日

内田樹『街場の現代思想』文春文庫

街場の現代思想 非常に面白い。まだ2冊目だが、徐々にファンになりつつある。「教養」「敬語」「結婚」「離婚」「倫理」といった、実に身近でありながら、どのように考えればいいか問われても正解がない、あるいは正解がたくさんある問題を、どのように考えればいいか教えてくれる、示唆に富んだ著作。例えば、「倫理」について。倫理的でない人間というのは、「全員が自分みたいな人間ばかりになった社会」の風景を想像できない人間のことであり、私たちが自分に課すべき倫理的規範は、社会の全員が「自分みたいな人間」になっても、生きていけるような人間になることであるとしている。これはとても現実味を帯びて響いてきた。私は教師という、倫理的に生きながらにして、倫理的に生きる人間を育てなければならない、倫理にがんじがらめに縛られた存在である。その際、生徒をどう導けばいいか。一つの道筋を得られた気がする。 Amazon


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河合隼雄『無意識の構造』中公新書

無意識の構造 ユングの提唱する無意識の世界を、夢などの具体例を通じて伝えてくれる。個人的には「影」の概念が面白かった。「影」とは、ある個人にとって認められない人格であり、言い換えれば、その個人が生きてこなかった生き方である。たとえば「倹約家」と「浪費家」というように、対になっている。しかし、認めたくないと言いながら、少し羨む気持ちが湧いてきたりもする。実は、「影」との共生こそが人生を幸福にする鍵でもある。人間は出来る限り苦痛を避けたいものだ。しかし、それでは人間としての幅は狭いままである。正反対の人格を認めてこそ、自分の不完全な部分を認めることに繋がり、人間としての幅は広がる。私も、人にうまく取り入ったり、媚を売ったり、そういう人が羨ましい。自分にそんな感情のあることに気づくとき、同時に自分がコミュニケーションが苦手だということに気づくのである。 Amazon
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2009年08月16日

村山由佳『楽園のしっぽ』文春文庫

楽園のしっぽ 村山由佳のエッセイ集。著者はデビュー前後から十数年間、千葉は房総半島の鴨川で半自給自足の農業生活を営んでいた。そのときの体験がほぼリアルタイムで綴られている。「生き物として真っ当に生きる」「殺伐とした都会から離れ、感情を浄化する」――という著者の理想は素晴らしい。飼っている動物に対しても、できるだけ自然な姿でいてほしい、本来の能力を伸ばしてやれるような環境を作ってやれたらと願う。しかし、思った。やはりそれは人間のエゴに過ぎないのではないかと。例えば、猫は米袋をかじるネズミを駆除するような存在でいてほしいという願いは、ネズミにとってみれば、大きなお世話なのではないだろうか。彼らにとっては、米を食べて生きることが「自然」なはずである。ただ、どうにか現実との折り合いをつけながら、少しでも理想に近づこうとする姿勢は尊敬に値する。この生き方が人々を感動させる小説の原点なのだなと思うと、非常に興味深く読めたし、時々織り交ぜられるユーモアも、面白い。今まであまりエッセイは好んで読んでこなかったけれど、大好きな作家のそれは格別だった。 Amazon
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2009年08月14日

芥川龍之介『地獄変・邪宗門・好色・薮の中』岩波文庫

地獄変・邪宗門・好色・薮の中 授業で『宇治拾遺物語』の『絵仏師良秀』を扱うため、読み返してみた。『地獄変』は、それから取材した作品だからだ。大学時代以来となる再読で、細かい描写などは忘れてしまっているため、たくさんの発見があった。三年ほど前に、夜中に猿沢の池のほとりを歩いたことがあるが、そのときは「あぁ、確か竜が出る話が芥川にあったな」くらいの認識しかなかった。しかし、今回読み返してみたことで、「狼少年」の亜種みたいな話だったのだと思い出すことができた。大鼻の恵印法師が軽い気持ちでついた壮大な嘘が、取り返しのつかない騒動を巻き起こし、その嘘が現実になるものの、法師はいたたまれない気分になってしまう。狼少年は最後には食い殺されてしまうが、法師は直接的な被害は受けない。しかし、この言葉にできない戸惑いや葛藤といった、人間の内面を描くことこそが芥川の成せる業ではなかろうか。それは本書に収められている『藪の中』や『二人小町』にも表れている。真実とは何か。ともに悩み苦しもう。 Amazon
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2009年08月07日

東野圭吾『秘密』文春文庫

秘密 「愛とは対象の幸せを願うこと」だと自分に何度も言い聞かせた信念を改めて思い出させてくれた作品。日々押し寄せる感情の波に呑まれ、危うく忘れるところであった。交通事故により、娘・藻奈美の身体に妻・直子の精神が宿ってしまうという怪異に襲われた平介。目の前にいるのは娘なのか妻なのか。悩み苦しんだ末に出した答えは、妻として接するということだった。しかし、それが直子を苦しめてしまう。お互いを苦しみから解放する鍵は、冒頭の論理。お互いが愛する者の幸せのために、考え行動し、やがて幸福な時間が訪れる。最後のシーンは、思わず涙腺が刺激された。人格が入れ替わるという設定は使い古されているし、どうせありえない(と私は思っている)現象を描くなら、浅倉卓弥『四日間の奇蹟』の方がいくぶん綺麗に昇華できている。しかし、本作はそれを「秘密」というキーワードと絡めることによって、話全体とうまく調和させることに成功している。うむむと唸らされた。 Amazon
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有川浩『レインツリーの国』新潮文庫

レインツリーの国 私は、人と人とが理解し合うためには、自分の想いを語り尽くすことが必要なのだと信じていた。しかし、それは違ったらしい。相手の想いを酌み取り、時には「語らない」ことも「語る」の中に含まれるのだ。関西から上京してきた会社員伸行は、昔好きだった本をインターネットで検索する。そこで行き当たった共感できる感想の持ち主であるひとみと、メールを通じて交流し、やがて実際に会ってみようということになる。簡単に言うと、この時点で恋に落ちてしまっているのだが。ネット上での恋、書評サイトと自分にも重なることが多く、感慨深く読み進めたが、心情描写が丁寧で、心に染みいってきた。また、忘れられない本のストーリーと登場人物たちがリンクする展開も面白かった。なにより、この話の鍵となるある事柄について、非常によく理解できる点が、後学のためにもよかった。それが何かは読んでのお楽しみ。 Amazon
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東野圭吾『手紙』文春文庫

手紙 罪を犯したものには罰がくだる。当たり前の話である。しかし、それは社会制度にのっとって定められた期間服役し、被害者に対して誠意を尽くして謝れば済むというようなものではない。自分が大切にしている人を不幸にするという苦しみを背負い、自分が大切にしている人から疎まれるという悲しみを抱き、そうして生きていかなければならない。それが罰だ。私も口外するのもはばかられるような、決して許されない行動をしてしまったおかげで、未だに苦しめられている。この苦しみは自分で背負っていかねばならないのはわかっているが、少々重い。ここが自分が成長できるかどうかの分岐点だと思う。また、自分のことを棚に挙げて、苦しんでほしいと願う対象もいる。人間は罪深いものだ。 Amazon
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森見登美彦『きつねのはなし』新潮文庫

きつねのはなし 『太陽の塔』のような妄想ヘタレ大学生の話ではない。ネチネチと薄暗く、それでいて含み笑いのあるような森見ワールドは閉鎖されている。しかし、この短編集も暗い。気分が落ち込むという意味ではなく、漂う雰囲気が、しとしとと雨の降る竹林といった、静かな暗さだ。そして、どこかで何かが蠢いて、人間世界をじっと見つめている。ゆっくり、時に激しく侵食するために。肝試しがわりにどうぞ。 Amazon
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